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行け!私の読書日記 _読書エッセイ

優秀賞

『行け!私の読書日記』

橋爪志保・京都府・25歳

 読書のモチベーションを維持することはなかなかに難しい。いくら本の内容が面白いから、教養が身につくからとはいえ、スマホなどの他の娯楽に溢れている現代人にとって読書を習慣化させることは簡単ではないのだと思う。当の私も、忙しさを言い訳に本を読まない日が数年続いていた。

 そんなある時、読書家として周りからも知られている友人の一人が、読書を楽しく続けられる方法を教えてくれた。用意するものは簡単だ。一冊の手帳と、習い事などを頑張る子どものごほうび用の「よくできましたシール」である。

 まず、少しでも読書をした日には、手帳のその日付の箇所に「よくできましたシール」を貼る。完読した日の箇所にはたまについてくる金ピカのシールを貼り、本のタイトルや著者名、出版社名、感想や印象に残った言葉を書き込むようにする。ルールはたったこれだけである。

 はじめにその方法を聞いたとき、私は思わず笑ってしまった。友人は私と同い年の二十五歳。いい大人がシールかよ、と吹き出してしまったのだ。すると友人はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、「だまされたと思って、やってみ」と言う。その顔が何だかとても癪にさわるので、変なところで負けず嫌いである私は、早速その日から、その方法で読書日記をつけることにした。

 効果はすぐにあらわれた。まず、シール一枚を貼る作業が、想像以上に楽しい。大人になっても自分の心の中に少女が眠っているとはまさか思わなかった。少女の私はよろこび勇んでシールを日課にし始めた。完読した日のシールがグレードアップすることも嬉しく、それは完読そのものの喜びと重なって爽快感あふれるものとなった。また、読む時間間隔を空けすぎてしまって内容を忘れてしまい、読むのを投げ出してしまうということが全くなくなった。加えて、今まで私は読んだ本を記録するという行為をしてこなかったのだが、何を読んだのかをしっかり書き残すことで、手帳自体が大きな財産となった。勿論、子どもではないのでシール目的で雑に本をむさぼったりはしない。大人でもあり子どもでもある微妙な年齢と元来の文房具好きが高じて、友人の作戦は私が行なっても成功をおさめたのだった。

「参りました」と再会した友人に告げると、彼女はしたり顔で自分の手帳を見せてくれた。私の手帳よりもシールの厚みで随分と立派になっているそれもまた、彼女にとって貴重な財産であるということは容易に見てとれた。私たちは読んだ本を勧め合った。

 私がブローティガン『西瓜糖の日々』の幻想的な詩情にうっとりすると、彼女はヘッセ『車輪の下』の健気な少年の心情を熱弁する。私が穂村弘・東直子『回転ドアは、順番に』で泣いてしまった話をすると、彼女はさくらももこ『たいのおかしら』で笑い転げた話をする。サン=テグジュペリ『星の王子さま(ちいさな王子)』は、二人とも別の訳者の作品を読んでいたので、それぞれ比較して話し合った。友人が何を読んで、何を考えたかが知れる読書日記。人には見せなくてもいいが、見せ合うと二倍楽しめる。実際、私は彼女と話が盛り上がったどころか、絆さえ深まったように思えたのだ。

 私の人生を変えた本は、一冊には絞り切れない。あれやこれやとさまざまなタイトルが浮かんでくる。しかし、あえて一冊に絞れというのなら、それは言わずもがな、自分自身で作り上げた読書日記だと思う。シールに頼っているうちはまだまだだ、と思われるかもしれない。けれど、どんな人も小学校の宿題などで、小さな「ごほうび」に喜んだ記憶があるのではないだろうか。そういった初心を忘れずに、これからも読書をしていきたい。

 行け! 私の読書日記!

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